A Tale of Two Uriah Heep

その4-小説の「ユライア・ヒープ」 編

これは、A Tale of Two Uriah Heep -revival-  の続きです。

これまでのおさらい

Uriah Heepには二つあって、一つ目はバンドの「Uriah Heep」、二つ目は小説『David Copperfield』の登場人物「Uriah Heep」、バンドのHeepについては前回までに書きました。

この半年くらい毎日Uriah Heepを聞いていましたが、さすがにHeep疲れしております。今日からはビクトリア朝の世界に入るので、Rainbowあたりにしますか…

1.Charles Dickensについて

私がCharles Dickensについて何か書くというのは恐れ多いことなので、ここはプロの文章をお借りする。

❛ Charles Dickens 1812—70

小説家。イギリス南部のポーツマス近郊に生まれる。ロンドンに移転後、父が借財不払いで投獄されたため、ディケンズは幼くして靴墨工場で働かなければならなかった。これは、彼にとっては生涯忘れることのできない屈辱となった。


やがて新聞記者となり、見聞した風俗をスケッチ風にまとめた「ボズのスケッチ集」(Sketches by Boz、1836)を出版し、同年、キャサリン・ホガースと結婚した。続いて出版した「ピクウィック・ペイパーズ」(The Pickwick Papers、1836-37)は、爆発的人気を呼んだ。ディケンズは、旺盛な創作力にものをいわせて、「オリヴァー・トゥイスト」(Oliver Twist、1837-39)、「骨董屋」(The Old Curiosity Shop、1840-41)、「クリスマス・キャロル」(A Christmas Carol、1843)、「ドンビー父子」(Dombey and Son、1846-48)、「デイヴィッド・コッパフィールド」(David Copperfield、1849-50)などの作品を次々に発表した。


その後、執筆のかたわら週刊雑誌の編集や経営、社会的な慈善事業や素人劇団作りに情熱を傾けたディケンズは、自作の公開朗読をアメリカやイギリスの各地でおこなって大好評を博した。しかし、作家として成功し、社会的名士と仰がれる一方で、その内面生活は暗く、家庭生活には亀裂が生じ、妻と別居するにいたる。「寂しい家」(Bleak House、1852-53)、「困難な時世」(Hard Times、1854)、「小さなドリット」(Little Dorrit、1855-57)、「相互の友」(Our Mutual Friend、1864-65)などの後期の作品は、こうした複雑な精神状態を反映するかのように不安と焦燥感にみちている。


ディケンズは、ヴィクトリア朝の経済的繁栄の裏に隠された弊害を暴き出し、唯物主義、拝金主義によって歪められた人間の心の悲しみと痛みを、鋭い洞察力とペーソスをもって描いた。彼の特徴ともいうべき誇張された人物描写、サスペンスにみちた物語の劇的展開は、今日の読者をも広く魅了する豊かな生命力を持っている。❜

出典「はじめて学ぶイギリス文学史」p.198-199

 神山妙子氏、株式会社ミネルヴァ書房

日本で有名なのは「オリバー・ツイスト」「クリスマス・キャロル」「大いなる遺産」などだと思う。Dickensの小説は映画にしやすいのか、何度もリメイクされてい。視覚的に映画にしやすく、花登筺のように話がわかりやすいのが理由かもしれない

私は「大いなる遺産」派で、何度も読んだものだ。最近はピップ(主人公)の若気の至りが自分と重なり、苦々しい気分になりますなあ。「David Copperfield」と似ているが、もっと洗練されたあらすじになってい

2.「David Copperfield」について

「David Copperfield」はわりと長編で、日本の文庫本では4~5冊からなっている。幼少期の話は、作者自身の状況を反映していると言われている。

ここではDavidの生い立ちと、ユライア・ヒープに関係することだけ書く。

一部の登場人物

David(デビッド)…主人公の少年。

ペゴティー…忠実なお手伝いさん。

ベッチー・トロットウッド…デビッドの大伯母。

スティアフォース…Davidの同級生。ブルジョアでイケメン。

ミコーバー…子だくさん、借金だらけの実業家。

ウィックフィールド…弁護士。学生時代の下宿先の主。

アグネス…ウィックフィールドの娘。利発な少女。

Uriah Heep(ユライア・ヒープ)…ウィックフィールド事務所の勤め人。


Davidの生い立ち

Davidの母親はまだ若かったが、年上のそこそこ金持ちの男と結婚し、サフォック州ブランダストンに住んだ。彼女は妊娠したが夫は突然亡くなってしまった。頼りになるのはお手伝いのペゴティーだけ、悲嘆にくれていてもお腹の子どもは育つ。ある夜、出産の最中に突然年配の婦人が現れる、彼女は死んだ夫の伯母ベッチーであった。昔、男にだまされてから男を憎み、ドーバーの田舎で静かに暮らしていた。「生まれた子どもは男か女か」と聞く。甥の子供が女の子であれば手元で育てようと考えていたのだ。しかし男子だったので彼女はそそくさとドーバーに帰ってしまった。

夫が残したこぎれいな家と庭の中で、Davidは若い母親とペゴティーに溺愛されながらぬくぬく育っていた。


ところが。

母親に恋人ができた。新しい恋人は母親を愛していたが、とても家父長的な男だった。母親は頼りない自分を支えてくれそうな男をえらんだのだ。しかし、Davidと恋人はお互いを気に入らない。

ある日、お手伝いのペゴティーに、彼女の実家に遊びに行きましょう、と誘われ、Davidは素直に海のそばの船の家に行った。船の家での暮らしは魅力的で楽しくて、時が経つのを忘れてしまうほどだった。

数日たって帰宅すると、母親とあの男は結婚していた。

続く体罰と冷たい生活。母親は目に涙をためて見ているだけだ(このへん、イラッとくるところ)。そのうち、継父の姉が一緒に住むようになり、家庭を支配した。つまり、継父とその姉が家のすべての権限を押さえてしまったのだ。Davidは母とペゴティーとの三人での幸せな暮らしを偲び、泣いた。

継父はDavidをLondonの寄宿学校に入れた。Davidは毎日教師から打たれ、級友からいじめられた。そこにスティアフォースという少年が現れる。彼はワルで上品な、魅力的な上流階級の少年だった。Davidは彼に助けられ、なんとか学校生活を乗り切ることができた。

休暇に帰省すると母親が赤ん坊を生んでいた。継父たちはDavidに赤ん坊に触らせようともしない。母は身体が弱っていたのか、そのうち母と赤ん坊は死んでしまった。そして、継父は10歳のDavidに「独り立ちしろ」と言った。


Davidは工場で働かなければならなかった。賃金は毎週6シリングである。暗い工場ではたくさんの少年少女がすすだらけになって働いている。日銭を稼ぎ、やっと今日のパンを得るという生活に陥ってしまったのだ。継父は下宿だけは用意した。そこは、貧乏で子だくさんのミコーバーさんの家だった。彼はいつも借金取りから追われていたが、善人で家庭を大事にしていた。大人と子供だけれども、彼らは友情を結んだ。

しかし、ある日ミコーバー一家は仕事を変えるためにロンドンを離れていった。Davidは一人でこの暮らしを続ける気持ちになれず、ある日、「これでは死んでしまう!」と思った。そして工場を脱走し、面識のない大伯母の元へ行くことに決めた。大叔母の家はドーバー。なけなしの金をとられたりおいはぎにあったりして無一文になったが、ひたすら歩いた、靴が擦り切れ、はだしになっても歩き続けた。

Davidは埃まみれ傷だらけの状態で大伯母の家にたどりついた。驚いたベッチーはさすがに彼を追い出すことはできず、甥の嫁の情けなさ哀れさ、継父の非情さに涙するのであった。結局ベッチーがDavidを引き取った。


DavidとHeepの出会いと戦い

Davidはカンタベリーの学校に入れることになった。ベッチーは知り合いのウィックフィールドのカンタベリーの屋敷にDavidを下宿させるよう計らってくれた。ウィックフィールドは資産家の弁護士で酒好きの朗らかな人物だった。家族にはアグネスという娘が一人。彼女はDavidと同じくらいの年齢だが、主婦の仕事を任されるようなしっかり者だった。Davidとアグネスとは仲の良い兄妹のように育った。


ウィックフィールドの家にはもう一人出入りするものがいた。Uriah Heep君である。

Heepはウィックフィールドの事務所の勤め人で、わずか15歳くらいだが、背が高く痩身で、白い幽霊のような男だった。事務所の奥で書き物をしているが、ふと気が付くとこちらを見張っていた。彼はいつも「私のような卑しい者があなたのような立派なおぼっちゃまとお話しできるなんて光栄でございます」みたいな下卑たことを言って人を不愉快にさせるのだった。また全体的にぬめっとした感じで、彼と握手をしたものは必ず手を洗いたくなるのだった。彼は老いた母親と二人で住んでいた。父親は墓堀人夫だが亡くなっている。Heepは一家を支えていた。


Davidは学校を卒業するとウィックフィールドの家を出て下宿を借り、一人で住み始めた。DavidはHeepの行動を不審に思いながらも、仕事をしたり恋をしたりスティアフォースと遊んだり、さらには結婚したりと充実した毎日を送っていたため、ウィックフィールドやアグネスが問題を抱えていることになかなか気が付かなかった。


気が付けば、今やHeepは勤め人ではなく、ウィックフィールドの共同経営者である。ウィックフィールドは酒に溺れ鬱気味になり、Heepによって仕事から遠ざけられていた。またアグネスはHeepに結婚を迫られていた。DavidはHeepに「アグネスに手を出すな」と言われたことに怒り、Heepを殴ってしまうが、「私は殴りませんよォ~」とぬるっと返されてしまうのであった。


なすすべもないDavid。ところが、なぜかミコーバーさんはHeepから雇われていたため、Heepの秘密を知る。Heepはウィックフィールドの仕事を奪ったうえで様々な文書を偽造し、人の財産を自分のものに書き換えていた。一致団結してHeepを追い込むDavidたち。Heepの運命は…?

【小説に出てくるおおよその場所】

Davidはロンドンからドーバーまで歩いたことになるが、google mapによると、徒歩で24時間と出る。一日8時間歩くと3日、子どもであればもっとかかるだろう。


ヤーマスはペゴティーの実家、またスティアフォースはオックスフォード大学に行ったので挙げてみた。

3.翻訳者の魅力

私が読んだ「デイヴィッド・コパフィールド」は中野好夫氏が翻訳したものだった。本そのものも面白かったが、「あとがき」にはDickensの著作に関する(もっと読みたくなるような)簡単な紹介、その本が書かれた時代背景などが書かれており、わかりやすくて、すごい人だなあと思ったものである。同時に読んだ「大いなる遺産」の山西英一氏の文章はなんとなく格調が高い気がした。Dickensではないけれど、福田恆存氏の文章もかっこいいと思った。

そんなことで、「次に何の本を読むか?」と迷ったときに、作家ではなく翻訳者で本を選ぶ時期があった。「こ、これは!」という新たな展開は無かったが、はずれもなかったと思う。

しかし、その作家の作品が面白いのか、その翻訳者が訳したから面白いのか、わからなくなってきた。思い余って違う訳者の同じ本を読み比べたこともある。そうするとイメージが違っていることもある。

読みたい本が無くなると、最後は出版社で選ぶしかなくなり、私は『現代教養文庫』ばかり読むようになった。そして純文学から遠ざかったのであった。


とにかく、私たちは翻訳者の文章を楽しんでいる。


好きな映画監督がいるように、好きな翻訳者がいてもよいのだ。

4.悲しい男

イギリスでは、19世紀には参政権を得た中産階級が貴族や大地主と手を結んで政治の実権を握り、国は繁栄した。一方貧富の差は激しく広がり、その段差は現代よりも激しい。Davidは幸い大叔母の庇護を得ることができてどん底から脱出できた。一方死ぬまで工場で暮らした子どももたくさんいて、大人になってもその続きを生きるだけだ。大人になれなかった子どももいたに違いない。

Uriah Heepは墓堀人夫の子どもだからこそ、自分で勉強しながら私文書偽造の罪を犯してまでupgradeしたかったのである。upgradeすれば弁護士事務所が持てる、アグネスと結婚できる…と。なんだか悲しい男じゃないですか。

あなたがHeepだったら、いかにして正攻法で勝ち上がりますか?開拓と称してオーストラリアに移住しますか?インドに行って商売を始める?

いずれにしても、誰かから何かを奪わなければ自分を満たすことはできない。なんてことを当時の人も考えていたのだと思う。このような状況のあと、イギリスは自らの発明と植民地から奪った富で繁栄した。

最終局面を迎えるHeep君

ここまで読んでくださってありがとうございました。

次は「Two Tales of Uriah Heep」-「打ち砕かれた夢 - デビッド・バイロンの最後 A Tale of Two Uriah Heep -David Byron- で終わります。

(2020/10/14)

追記

【重要なご紹介】

数年前BBCで放送された連続ドラマ。

Dickensのいろいろな小説のキャラクターが登場し、事件を起こします。スクルージさんのクールなこと。若き日のハヴィシャム夫人の美しいこと。そしてジャガーズたんの超カッコいいこと!

Dickensがお好きな人にはたまらないと思います。

(私はAmazon Primeで見ました。)

【ご参考】

本を読むのが面倒な場合、このDVDを見るのもよいと思います。ハリポタの子がDavidをやっています。

【お知らせ】

新しい映画「ザ・パーソナル・ヒストリー・オブ・デヴィッド・カッパーフィールド」(仮題)ができたようです。

なんと人種関係なしの配役となっているそうです。

ユライア・ヒープ ベン・ウィショーという人が演じています。(この動画では1:10あたりでちょろっと登場します。)